寄稿01

寄稿しました《高橋稜染織作品展 記録集》

髙橋稜染織作品展「セイカツ ノ カケラ」記録集
に寄稿させていただきました。

作品を鑑賞したあの日の気持ちを素直に書いてみたいと思いました。
記録集を実際に手にし、今回このようなお話をいただけたことに感謝しています。
2025年7月

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カケラを持ち帰る

2025420日 日曜日、外出した際に「作品なんて見たくない」と渋る子どもたちを車に乗せ、ひいなアクションgalleryで開催中の髙橋稜さんの染織作品展「セイカツ ノ カケラ」を訪れました。到着後、最初は乗り気ではなかった子どもたちが、ガラス一面に映る鮮やかな色彩に目を奪われ、自ら進んで会場へ入っていったことに驚かされました。

本展は2つの空間で構成されていました。
入ってすぐのホワイトキューブには、カラフルな羊毛を織り込んだレリーフ状の作品が並び、四角い色面の中に日常のモチーフが繊細に浮かび上がっていました。精緻に張られた経糸と緯糸によって形づくられる織りの基盤に、おにぎりや目玉焼きといった日常の「カケラ」を感覚的に刺繍する遊び心が重なり、思わず微笑んでしまうようなユーモアが作品全体にあふれていました。
作品に使われている糸はすべて作家自身が染めていると聞き、染めから始まり、糸を織り、さらに刺繍を施す、そのすべての工程を経て作品が完成するまでの膨大な時間を想像すると、制作と生活が常に並走していることが感じられ、手を動かしながら日々の「セイカツ」から「カケラ」を布に織り込む姿が浮かび、作品に満ちる色彩の鮮やかさからは、作家にとっての毎日が「日日是好日」であることが伝わってくるようでした。

奥の部屋では、テレビや時計の形をかたどった羊毛で制作した白い立体に、赤い糸で文字や数字を刺繍した作品が静かに佇んでいました。これらは、過去の地震発生時に体験した出来事を赤い糸で綴った数点の物語で、作品と共に閉ざされた住宅の一室を思わせる空間に身を置くと、作家の当時の想いがリアルに迫り、自分自身の記憶と重なって胸が締めつけられました。漢字の読み方を質問してくる娘に返答できないほど動揺し、多くの人々の顔が思い浮かび、より深く作品世界に引き込まれました。羊毛という柔らかく優しい印象の素材に、赤い糸で刺繍された文字というダイレクトな表現により、印象が増し感情が揺さぶられたのかもしれません。

その感情を抱えたまま奥の空間を後にすると、再度ギャラリーの明るい色彩に出合い、ようやく心が落ち着きを取り戻しました。最後に、ブローチという名の「カケラ」を手にして帰路につきました。車中では子どもたちが展覧会の感想を嬉しそうに語り合い、髙橋さんの「セイカツ ノ カケラ」が私たち家族の新たな「カケラ」(記憶)となったことを実感しました。

髙橋稜さんの作品には、人を惹きつける力があります。カラフルな糸によって、日々の感情の揺れ動きを表現するセイカツノカケラは、鑑賞者の心に変化を起こし、それぞれの記憶の中に入り込み、まるでその布を纏っているような感覚に包まれます。本誌冒頭の髙橋さんのごあいさつで、ひいなアクションgalleryでの個展開催に特別な思いを抱いていたことを知りました。私にとっても、ここは個展をひらき、運営に携わった、大切な場所です。多くの出会いを生んだこのギャラリーは本展を最後に閉廊しましたが、最後の展覧会が髙橋さんであったことは必然であったと思います。やわらかな色と糸が、この空間の終わりをそっと包みこんでくれたようでした。

モンデンエミコ(アーティスト/NPOひいなアクション)

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