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展示アーカイブ:モンデンエミコ「物語のはじまり」2022年2月

展示したこの週は、とにかく雪が降り大変でした。
そんなお天気にも関わらず、多くの方が作品を見てくださり、心温まる言葉をかけていただき、感謝の気持ちでいっぱいです。
「物語のはじまり」と題した本展ですが、今後どのような物語を紡いでいくことになるのか、私自身も楽しみです。
アーカイブとして、展示の様子写真と壁面に掲示したテキストを記載します。


【第一章 モモは4月から小学1年生】

 我が家は私(モンデンエミコ)と主人(ヒデさん)、息子(アオ:小学3年生)、娘(モモ:年長)の4人家族です。

ここにある「刺繍日記」はモモが生まれる少し前から一日一枚縫い綴りはじめました。現在刺繍日記の枚数は2000枚を超えます。
制作を続けたい気持ちと、「お母さん」になったら「私」という存在がなくなってしまうのではないかという不安を抱えながら、毎日1枚身のまわりの紙に糸と針で日記を縫い綴る「刺繍日記」の制作をはじめました。縫いながら1日を振返り、縫いながら反省をし、縫いながら自分と向き合う、それは私にとって大切な時間でした。

 思い出してみると、一人目の子どもがお腹の中にいるときは、私とは違う生命が共存しているという感覚があるものの生活に大きな変化はなく、こどもが生まれた直後から私はこどもを育てるためにおっぱいをあげ、子ども中心の時間で動かなくてはいけなくなり、こんなに「お母さん」が忙しいなんて想像もしておらず戸惑いました。

そして二人目が生まれると、その忙しさは二倍以上に感じ、本当に子ども中心の生活になりました。もちろん、子どもがいることで見える景色や発見があり、どれも記憶しておきたいような日々であったのは間違いありません。ただ大げさに聞こえるかもしれませんが一日一日を生きるのに必死すぎて、覚えておくことができず、「刺繍日記」に綴ることでその日をリセットして次の日をむかえる、そんな毎日でした。

 呼び名が「ママ」から「お母さん」かわり、この春、モモは小学1年生になります。不器用な私は、「私」という存在以上に大きくなっていく母親という役割に戸惑いながらも、待ってはくれない娘の成長とむきあっています。

そして、どんな形のお母さんが正解なのかはわからないけど、私は「お母さん」をしていたということを6年間の刺繍日記を振り返って実感しました。

 この展示はモモに関係したことを抽出した6年間の記録ですが、ひょっとしたら皆さんにとっても重なることがあるかもしれません。ある人にとっては通り過ぎた過去として、またある人にとってはこれから来る未来、もしくは現在進行形なこともあるかもしれません。

それぞれの方が、それぞれの視点で日記を楽しんでもらえると嬉しいです。

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【第2章 コロナの記憶、コロナの記録】

 「コロナ」この単語はいまでは当たり前のものとなりましたが、2020年当初は未知のウィルスで、どのように対処していくべきかわからない事ばかりでした。毎日の生活は大きく変化し、人との距離をとり、自由に往来することも出来なくなりました。オンラインが急速に普及しましたが、ニュースからは毎日感染者数が報告され、見えないものに怯えながら、過剰なまでの手指の消毒をして、人前ではマスクを着用するようになりました。そして、これらによって今まで以上に家族という最小単位で生活することになりました。

ここに展示してあるのは「刺繍日記」から“コロナ”と書かれた日記や関係するものを抽出したものです。

 マスクをつけたまま裸でお風呂に入ってきた息子を見た時、ビックリしながらも子どもの適応能力の高さを感じました。大人の私は自分の経験をもとに、普段の生活がおくれないのが可哀そうと考えますが、ひょっとしたら子ども達にとっては、違う受け止め方があるのかもしれないと頼もしく感じたこともありました。

ただ、サンタさんのプレゼントに「任天堂スイッチのコントローラー」か「絶対にコロナにかからないワクチン」どちらをお願いするかどうか悩んだ息子をみて、コロナが収まった世界を望んでいることを痛感しました。

 今なお続くコロナ禍において私ができることは、刺繍日記を通して、過去も含め現実の出来事として可視化し、日々の生活を見てみることだと考えました。

2020年あんなに神経をすり減らし怯えた生活をしていたはずなのに、日記をみるとコロナがあってもなくても変わることのない日常を過ごしていたようにも思えます。会えない時間が増えたことで遠方の家族との距離は遠くなりましたが、気持ちは近くなったようにも感じます。

 ウィズコロナ時代そしてアフターコロナ時代にどのような生き方をすべきかの答えは出せないままですが、一つ言えるのは過去の積み重ねが今、今の積み重ねが未来へと繋がっていて、誰もがそうやって毎日を積み重ねているということだと思いました。
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アリガトウゴザイマシタ